やなせたかしさんとサンリオがともに紡いだ『詩とメルヘン』の世界
みなさんは1973年に創刊し、2003年までの30年間にわたり発行された『詩とメルヘン』をご存じでしょうか。
自身も文学青年だったサンリオの創業者 辻󠄀信太郎(現在は名誉会長)が、抒情画と抒情詩の担い手を育てようと刊行した文芸誌です。
一般の読者に投稿してもらった詩や童話(メルヘン)に、プロのイラストレーターが絵を付けるという、ユニークな誌面構成が特徴の当時他に類を見ない全く新しいタイプの雑誌でした。
1975年からは、「サンリオ美術賞」を創設し、1981年からは「イラストコンクール」を開催するようになり、この場から多くのアーティストが羽ばたいていきました。
責任編集長を務めたのは、NHK連続テレビ小説「あんぱん」のモデルとしても知られ、『アンパンマン』を生み出したやなせたかしさんです。やなせさんは編集全般に携わるだけでなく、表紙絵や詩、メルヘンを自ら手がけ、さらに豆カット(小さなイラスト)まで描き、誌面全体に細やかな工夫を凝らしました。
創刊当初は「すぐに廃刊になるだろう」と言われていましたが、大きな活字で読みやすく組まれた誌面は評判を呼び、読者からの投稿も次々と寄せられました。その後、『詩とメルヘン』は季刊から隔月刊、さらに月刊へと発展し、終刊までに増刊号を含め通算385号を刊行しました。
本記事では、『詩とメルヘン』の魅力を、誌面や出版物からの引用を交えながらご紹介します。
表紙
全385号の表紙はすべて、やなせたかしさんが手がけました。
書籍『やなせ・たかしの世界』(1996年、サンリオ)では、やなせさんは表紙制作について次のように語っています。
「表紙は必ず何かの案を入れるということと、カップルをどこかに描き込むということで通しています。」
創刊号の表紙については、『やなせ・たかし画集』(1977年、サンリオ)で次のように振り返っています。
「『詩とメルヘン』を創刊するとき、表紙は誰か他のひとに依頼したいと思ったが、「いや、表紙はやはりやなせさんが描くべきです」といわれたので、おそるおそる描きはじめた。創刊号の時は内容の編集の方に精神が集中してしまい、最初に描いた絵は没にされてしまった。もう一度気力をふりしぼって夜明けの灯台を見るふたりを描いた。カラーインクを使ったが、空の感じがうまくいって、いかにも不安と期待を象徴したような風になった。絵はうまくないが、これを描いたことで『詩とメルヘン』のその後のひとつの基本パターンができたので、ぼくにとっては記念すべき作品です。」

四季折々の情景を鮮やかな色彩で描いた表紙には、趣向を凝らしたタイトルも添えられ、読者の目を楽しませました。

(右)ひとつぶ雨がおちるたびにひとつの花が咲くんだ4月号☆/1976年4月
編集前記
誌面冒頭の「編集前記」は、大きな文字で読者に向けたメッセージが掲載されました。創刊号の編集前記をご紹介します。

「この本はちょっとふしぎな本です。
非常に個人的な偏見と趣味に偏してつくられています。
すべて読みやすくということが主眼で大きな活字でザックリと組みました。読者層は十才から九十才ぐらいまでを対象にしました。
本職の詩人もいますが、大部分は全くの無名の人の詩をガリ版刷りの同人誌や、手描きの詩集からひろいあつめました。
この本ははじめからものすごく大量に売れることはないと覚悟して、わがままに自由につくってありますが、それでもできるだけのぜいたくをしました。商業主義に毒されたくはありませんが、全く売れなければ一号だけでつぶれます。一万部売れれば収支トントンで次号がだせます。さて、どうなりますことか。あなたは買いますか?」
最後に添えられた「あなたは買いますか?」といった問いかけは、その後も定型のスタイルとして続きました。
書籍『詩とメルヘン復刻版』(1989年、サンリオ)では、次のように振り返っています。
「なるべく大型活字で組む。すると本屋の店頭で偶然本を手にした人がこの大型活字を読む。たぶん定価を見て(当時300円)買おうか買うまいかと迷うにちがいない。その人に決心させる必要がある。考えた末「あなたは買いますか」という言葉を入れることにした。二号からは「ところであなたは買いますか」にして、これはきまり文句になった。ずーっと続けているうちに「買いますか」は押しつけがましいという手紙が来たので中止すると「あれがないと淋しい」という手紙がまたドッと来たので現在は「ところであなたは……」で切っている。」
目次
創刊号の目次には「いそがしい方はここだけでも読んでください。」という言葉と、やなせさんによる豆カットが添えられました。
また、各作品には短いコメント(寸評)が添えられ、読者を作品世界へやさしく導いていました。

詩
誌面では、イラストレーションが1ページ、あるいは見開きいっぱいに広がり、その上に詩が大きな文字で組まれていました。書体も作品ごとに変えられ、視覚的にも楽しめる誌面となっていました。
プロのイラストレーターが詩の世界を描くこのコーナーは、雑誌を象徴する魅力のひとつでした。
ここでは創刊号の最初に掲載されたやなせたかしさんの詩をご紹介します。

トランペットを吹く少女
堤の草むらの中で
シャツの腕をまくりあげた少女が
トランペットを吹いている
そのトランペットはとても下手で
音がかすれる
しかし/なんていいんだろう
トランペットが/上手に吹けないために
少女の頬はまっかになり
ひたいは汗にぬれている
少女の頭の中で/トランペットは/高鳴っている
それなのに/なぜ/トランペットは/鳴らないのだろう
でも/けんめいに/吹きつづける
でも/けんめいに/吹きつづける
でも/けんめいに/吹きつづける
メルヘン
「メルヘン」とは、奇想的で短い物語のことです。
やなせさん自身も数多くの作品を発表しており、そのひとつが1975年1月号から連載された大人向け長編「熱血メルヘン 怪傑アンパンマン」でした。
物語には、アンパンマンのほかにジャムおじさんや、漫画家のヤルセ・ナカス(やなせさんの分身)も登場しています。

ギフトマガジン
雑誌の最後のページ「The gift magazine」には、やなせさんのイラストの下にメッセージ欄が設けられました。
創刊号では「この本にあなたの言葉を書きそえ、まごころのこもった贈りものとしてご利用ください」と記され、メッセージカード風に仕立てられていました。

『詩とメルヘン』に込められた想い
抒情に満ちた世界を、一人でも多くの人に届けたいーー。
『詩とメルヘン』には、そんな願いが込められていました。読者は誌面に作品を投稿することで、読むだけでは得られない創作の楽しさや表現の多様性を実感できました。さらに、おたよりコーナー「風の広場」など、読者同士が言葉を贈り合う交流の場も設けられていました。こうした経験は、人と人との心をつなぐコミュニケーションとして、サンリオが創立以来大切にしてきた「みんななかよく」という企業理念にも通じています。
時代が移り変わり、社会のデジタル化が進む中、サンリオの事業もギフト商品や出版にとどまらず、多様な形へと広がり続けています。しかし、根底にある理念は今も変わることなく息づいています。
これからもサンリオは、「みんななかよく」という企業理念をもとに、一人でも多くの方に笑顔を届け、その輪を世界中に広げていくーー「One World, Connecting Smiles.」のビジョン実現に向けて歩み続けてまいります。
(終わり)
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©︎やなせたかし
